公共貢献における容積率緩和制度とは?緩和のメリットや機能開発における注意点
公共貢献を行う建築計画に対し、容積率を緩和することで、市街地環境の向上に寄与する都市開発の制度があります。
公共貢献で容積率が緩和されることで、より大きな建物を建てられる、床面積あたりの価格を下げられるなどのメリットがあります。
一方で、公共貢献の計画から実現までは長期にわたるため、実装を見据えた計画が重要です。
また、容積率緩和制度の適用にはさまざまな条件があるため、制度の適用を検討している場合は仕組みを把握しておく必要があります。
この記事では、公共貢献における容積率緩和制度の概要や、容積率緩和のメリット・注意点を紹介します。
容積率と容積率緩和制度について
公共貢献で容積率緩和制度を活用する場合は、容積率について理解しておく必要があります。ここでは、容積率と容積率緩和制度について解説します。
容積率緩和制度とは
容積率緩和制度は、都市計画で定められた容積率の上限を、特定の条件を満たすことで緩和する制度です。
容積率は地方自治体により地域や区域ごとの用途に応じて制限されていますが、この制限は特定の条件で緩和が認められています。
容積率緩和制度の活用によって、容積率の制限を超える高さにでき、延べ床面積が広い建物を建築することが可能です。
この制度は、人口の増加を図るための土地の有効活用や建物の高層化、市街地環境の向上につながる都市開発の誘導を目的としています。
容積率とは
容積率とは、敷地面積に対する3次元空間の割合を算出したもので、「延べ床面積÷敷地面積×100」で計算できます。
それぞれの階の床面積を合計した面積が延べ床面積になるため、容積率は土地に対して何階の建物を建てられるかを定める基準となります。
例えば、1階の床面積が30㎡、2階の床面積が30㎡で敷地面積が100㎡なら、容積率は「(30㎡+30㎡)÷100㎡×100%=60%」です。
容積率と建ぺい率の違い
建ぺい率は、敷地面積に対する建築面積の割合を算出したもので、「建築面積÷敷地面積×100」で計算できます。
容積率が建物の高さを表す指標であるのに対して、建ぺい率は建物の広さを表す指標であることが違いです。
建築面積は建物を真上から見たときの面積で、容積率と同じように上限が設けられています。
建ぺい率も容積率と同じように、都市計画で用途・用地ごとに定められており、特定の条件を満たすと緩和されます。つまり、容積率を増やして建築することを許可してもらえるようになるわけです。
容積率のルール
容積率は、用途地域によって限度が定められています。例えば、容積率が80%と定められている地域では、その上限を超える建物は建築できません。
つまり、容積率に制限があることによって、その敷地内で建てられる建物の高さに制限がかかるというわけです。
用途地域は住居系、商業系、工業系など13地域に分けられ、容積率の上限は住居専用地域で低く、工業系や商業系で高くなっているのが一般的です。
容積率の上限を超えている建物は、違法建築物とみなされます。
容積率制限の目的
容積率制限の目的は、建築物の規模や密度に制限をかけ、対象地域の過剰な建築を抑制し、建物一棟あたりの収容人口をコントロールするためです。
容積率に制限をかけないと、無秩序な建築が増えてしまいます。
建物が大きくなると人口が増加し、インフラの整備が追いつかなくなってしまいます。建築物と公共施設とのバランスを保ち、住環境を保護するために必要な制限です。
公共貢献における容積率緩和制度とは
公共貢献における容積率緩和制度とは、公共的な貢献を行う建築計画に対して、容積率の規制を緩和する都市開発諸制度の一つです。
容積率緩和制度が認められると、用途地域により指定された容積率を割り増しして建築できるようになります。
自治体においては、公共貢献において容積率を緩和することで、都市機能の導入を促せることが大きなメリットです。
そして開発を担う民間事業者にとってはオフィスや住宅、商業施設など賃貸借、分譲することができる空間をより多く開発、販売することが可能となり、そこで得ることができる収益を見込んで、より地域に貢献できる有益な機能を整備することができるようになります。
公共貢献は都市再生に係る開発事業のことであり、交通施設や地域貢献施設、防災、環境、広場、通路などの分野があります。
しかし、制度適用に関しては、民間事業者と自治体との協議に時間を要するという課題があります。
そのため、自治体では方針を策定し、容積率緩和の評価対象となる誘導用途や公共貢献を事前に明示するなどの対応を行っています。
評価対象となる公共貢献の事例
容積率緩和制度が適用される公共貢献には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、容積率緩和制度の評価対象となる公共貢献の事例を紹介します。
環境貢献
緑化などの環境貢献は容積率緩和制度の対象となります。
都市部においては緑地やオープンスペースが不足し、公共主導の公園緑地の整備だけでは緑の確保が困難という課題があります。
容積率緩和を推進することで、開発地を活用して小規模な公園や緑地などを創出したり、壁面緑化を促したりすることで良質な緑化空間の形成が期待できます。
自治体においては緑化を推進することにより、都市の熱環境の改善や、緑化部分の断熱性の高まりによるエネルギー効率などがメリットです。
うるおい感ややすらぎ感が向上し、住民の快適性も高まります。
まちづくり・都市再生
まちづくりや都市再生に関わる公共貢献も、容積率緩和制度の評価対象となります。
例えば、社会福祉施設や劇場やホールなどの文化施設、コミュニティ施設などの公益施設関係、歴史的構造物の保全や活用、観光支援施設の整備、地域振興と交流創出のためのMICE施設、ホテルの整備などです。
日本においては、人口減少や高齢化、地場産業などの停滞により、地域の活力が低下している現状があります。そのため、経済社会の変化に応じた都市の再構築が急務です。
自治体にとっては容積率緩和を通して、民間事業者にまちづくり・都市再生を促し、地域への集客と交流を促進し、地域に賑わいをもたらして経済効果の拡大が期待できます。
防災
防災対策に関わる公共貢献も、容積率緩和制度の評価対象となります。
例えば、帰宅困難者対策や防災備蓄倉庫の整備、雨水流出抑制、耐震性の低い建物などの建替えです。
また、地域によっては水害に対応した高台まちづくりに関する取り組みを行った場合に、容積率が緩和される場合もあります。
日本は災害大国といわれているように、毎年のように国内のどこかで地震や集中豪雨、台風災害が発生しています。
自治体にとっては、容積率緩和で民間による災害対策の取り組みが推進されることにより、地域の防災力を高められる効果が期待できます。
公共貢献で容積率が緩和されるメリット
公共貢献で容積率が緩和されることで、事業者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、公共貢献で容積率が緩和されるメリットを紹介します。
建物の高層化が可能になる
公共貢献で容積率が緩和されると、延べ床面積を広げられるため建物の高層化が可能です。
事業者にとっては従来よりも大きな建築物が建てられることで、上階に新たな価値を生み出すことができ、顧客や収益の増加が期待できます。
より具体的には、開発事業社がさらに多くの住宅の分譲販売や賃料、オフィスや商業施設の賃料の増大を見込みことができるため、公共貢献施設等の開発や運営にかなりの費用が必要となっても、それ以上の収益を見込みことも可能となるわけです。
自治体にとっても、建物の高層化によって労働者や住民、顧客が増加すると、税収が増えるというメリットがあります。
容積率緩和による建物の高層化は、事業者と自治体の双方にメリットがあります。
床面積あたりの価格を下げられる
公共貢献で容積率が緩和されるメリットは、床面積あたりの価格を下げられるため、費用対効果を高められることです。
床面積あたりの価格は坪単価ともいい、本体工事費を延べ床面積で割ると算出できます。
容積率は建物の高さに関する指標であり、容積率が緩和されると、敷地面積は変わらずに建物に高さを出せます。
敷地面積にかかるコストは土地代となりますが、容積率緩和が適用されても敷地面積は変わりません。
本体工事費に土地代が加算されない一方で、また増床により建築費用が増大するとしてもそれ以上に延べ床面積は増えるため、坪単価が下がるという仕組みです。
容積率緩和制度を利用した公共貢献の機能開発における注意点
容積率緩和制度を利用した公共貢献の機能開発には、注意すべきポイントもあります。ここでは、公共貢献において容積率緩和制度を利用する際の注意点を紹介します。
容積率緩和の基準には上限がある
容積率緩和制度は容積率の制限を超えて建築できる制度であるものの、緩和される容積率には基準があるため注意が必要です。
例えば、容積率の制限が500%の場所に、公共貢献の建物を建築する場合に300%の容積率が緩和されるとします。
この場合、緩和された300%と元の500%を合算した800%までの建物を建築できますが、それ以上の建築物は建てられません。
容積率の加算分も含めて容積率を超過すると、建築許可を得ることができません。
容積率緩和制度を活用する際には、どれくらい容積率を加算できるかどうかも調べて、建築計画を立てる必要があります。
容積率緩和制度が認められていない公共貢献もある
公共貢献の評価基準は、容積率緩和が認められないケースもあります。
例えば、外国人向けの居住環境の整備や、ビジネス環境整備を行う貢献は増加傾向にありますが、このような貢献は容積率緩和制度で認められていないケースも少なくありません。
認められない理由としては、審査や竣工後の運用において評価がしにくいという点が挙げられます。また、過去の事業と同じような提案をしても、評価されにくい部分もあります。
これは、公共貢献の評価項目に「地域に不足している機能の強化・充実・地域の独自性を踏まえた機能」と明記されている場合が多いためです。
過去に高く評価された公共貢献でも、地域性が考慮されなければ評価されない可能性があるため注意しましょう。
公共貢献における容積率緩和制度の適用には独自性も必要
公共貢献では、過去の事業における取り組みをそのまま踏襲するのではなく、地域の特性や課題を踏まえて提案することが大切です。
過去に高く評価された事業においても、同じ内容であれば、容積率緩和制度が認められない可能性があります。
また、時代によっても公共貢献の需要が多い分野は変わっており、近年では防災や環境、地域貢献施設の整備や運用などソフト分野を含めた取り組みが増加しています。
需要が増加している分野においては類似例が少なく、独自性も出しやすいでしょう。
実装を見据えた計画が重要
公共貢献における容積率緩和制度の適用は、計画から実現まで長期にわたるため、実装を見据えた長い視点での計画が重要です。
公共貢献の事業を推進するにあたって、周辺環境や動向調査、ニーズ調査などを行う必要があります。
次に調査に基づいた事業の基本方針の策定が必要となり、コンセプトやターゲット、達成目標などを設定しなければなりません。
また、容積率緩和制度が認められるような、公共的な貢献につながる仕掛けや仕組み作りを行う必要があります。
施設計画では施設レイアウトや設備、備品、行程計画、工事費試算、図面作成も必要です。そして、現実的で計画通りに進む実行計画の策定という流れで進みます。
実現にはさまざまな工程を踏む必要があり、さらには自治体が定める評価基準や適用条件も把握しなければなりません。
また、地域貢献施設等は竣工後にその施設が当初の目的を果たすことができるように的確な運営を行うことも必要となります。
例えば国際交流や観光振興を促すことを目的とした施設であれば、それが目的に沿った運営が行われるためにどのような方針や利用ルール、制限などを定めて運営していくのかも大切になります。
計画的に効率よく進めていくためには、公共貢献の機能開発の実績がある企業に依頼するのも方法の一つです。
まとめ
この記事では、公共貢献における容積率緩和制度や容積率緩和のメリット、注意点を紹介しました。公共貢献において特定の条件を満たすと、容積率が緩和される制度があります。
容積率が緩和されることにより、容積率制限を超えた建物が建てられるようになり、事業者にとっては収益の増加、自治体にとっては税収の増加や都市化促進のメリットがあります。
一方で容積率緩和制度の活用には、公共貢献の評価基準をクリアする必要があり、実装に向けた計画は長期にわたります。
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