まちづくりにおけるEBPMとは?成果連動型民間委託契約方式(PFS)との関係も紹介
地方の人口減少や高齢化が深刻化するなか、いつまでも住み続けられるまちづくりの重要性が高まっています。
まちづくりの政策形成においては、民意や社会状況をタイムリーに反映する必要があり、その方法としてEBPMが注目されています。
取り組みを進めていく自治体が増える一方で、「EBPMって何?」「どうやって推進するの?」など疑問に感じる方もいるでしょう。
この記事では、まちづくりにおけるEBPMの概要や求められる背景、推進のポイント、PFSとの関係を紹介します。
EBPMとは
EBPMの推進は、まちづくりの分野でも注目されています。ここでは、EBPMの概要や使用されるデータ、まちづくりにおけるEBPMを解説します。
EBPMの概要
EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)とは、政策企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、エビデンスに基づいて合理的に行うことです。
エビデンスは英語で「証拠」「根拠」「証言」などを意味する言葉で、提案や意見を述べる際に、客観性を高めることや説得力を持たせることができます。
たまたま見聞きした事例や経験のみに基づき、政策を立案するだけでは根拠や分析が不十分です。
一方、エビデンスベースがあれば、変化が生じた要因について事実関係をデータで収集して分析することで、どのような要因が変化をもたらしたか検証できます。
その要因を知ることによって、効果的な政策の立案ができるというわけです。
政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計などのデータを活用したEBPMの推進は、政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保にもつながります。
まちづくりにおけるEBPMとは
まちづくりにおけるEBPMとは、データ収集や分析を通して、エビデンスに基づいたまちづくりの政策を実行することです。
まちづくりとは、地域住民の生活環境を改善し、持続的な地域コミュニティを創出するための活動となります。
目的としては、地域活性化を促し、まちのにぎわいの場を作り、さらなる発展につなげることが挙げられます。
まちづくりにEBPMを推進することで、ヒト・モノ・カネなどの制約により、これまで把握できなかった新しい気づきや課題の発見につながるでしょう。
また、的確にまちの状況が把握できるようになり、講じるべき施策やメリハリある取り組みが可能になります。
さらに、まちづくりの将来像や施策効果の可視化がしやすくなり、住民の理解促進や住民主体のまちづくりを進めやすくなるでしょう。
EBPMで使用されるデータ
まちづくりのEBPMでは、エビデンスに基づくさまざまなデータが用いられます。例えば、以下のようなデータもまちづくりのEBPMに使われます。
- ・人流:携帯基地局の人流データなど
- ・車両:ETC2.0の活用など
- ・ICカード:改札の入出場時やバスの乗降時の利用履歴など
- ・衛星:地表面の土地利用の状況や対象物の色、大きさ、形状など
- ・不動産:実際に行われた不動産の取引価格など
- ・消費:クレジットカードの購買者の属性や消費活動など
- ・電力:各世帯、事業所の使用電力の把握など
- ・健康:医療機関への受診状況や個人の健康状況など
- ・SNS、検索:来訪者の特性や各地域で関心の高いキーワードなど
また、自治体が持つデータもまちづくりのEBPMに活用できます。人口や住民の異動に関するデータ、出先機関の行政窓口の利用状況に関するデータなどです。
まちづくりにEBPMが求められる背景
自治体を取り巻く環境が変化するなか、EBPMが注目されています。ここでは、まちづくりにEBPMが求められる背景を紹介します。
市民のライフスタイルや都市の複雑化
まちづくりにEBPMが求められているのは、市民のライフスタイルや都市の複雑化が進んでいるためです。
日本は経済や社会制度が発展し、必要なモノやサービスが満たされ便利な生活が送れる成熟社会に移行しています。
それに伴い、市民のライフスタイルや価値観は多様化し、都市空間で行われていた消費活動がインターネットの普及で自宅にいながら行えるようになりました。
また、新型コロナウイルスの危機によって在宅勤務やテレワークの導入、自宅での活動時間の増加によって働き方や暮らし方も変化しています。
複雑・多様化する都市や市民生活の状況などを的確に捉えたまちづくりが重要となっており、そのためにもEBPMが必要です。
今の状況が把握できる
今の状況を正しく把握し、課題に合わせたまちづくりを行うためにも、EBPMの必要性は高いといえるでしょう。
データの収集や解析を行うことによって、住民が抱える不安や課題が可視化され、それに基づくまちづくりが可能となります。
以前からデータの分析や活用は行われてきましたが、新しい技術によって、これまで把握が難しかったデータが把握できるようになっています。
例えば、顔認証カメラによる空間内での人の流れの把握や、AIを活用した膨大なデータの統合・分析などです。
新しい技術によって、よりリアルタイムの状況が把握できるようになり、まちづくりにも活用されています。
まちづくりの課題意識を明確にできる
まちづくりにEBPMが必要となるのは、まちづくりの課題意識を明確にするためです。
少子高齢化や人口減少が進むなか、空き家や空き地、老朽化するインフラへの対応が遅れるなど、都市が担うべき機能や魅力低下が危惧されています。
また、近年では異常気象に伴う自然災害が頻発・激甚化しているなど、災害リスクへの対応も重要なテーマです。
しかし、地域によって抱える課題や対策の優先順位は異なり、他の自治体と同じような対応をしていては問題解決につながりません。
地域ごとの課題を明確にするためにも、EBPMが必要になります。
政策の質を高める
まちづくりの政策の質を高めるためにもEBPMが必要です。
地域がさまざまな課題を抱えるなか、限られた資源を効果的・効率的に利用し、自治体への信頼性を高めるための政策を形成していくことが求められています。
政策がまちの課題に合っていなければコストや時間が無駄になるため、政策そのものの信頼性や質を高めるためには、エビデンスに基づく必要があります。
まちづくりにおけるEBPM推進のポイント
まちづくりにおけるEBPMを推進するためには、政策目的の明確化やエビデンス、政策を行っていない場合との比較などが重要です。
ここでは、まちづくりにおけるEBPM推進のポイントを解説します。
政策の明確化
まちづくりにおいてEBPMを実践するためには、政策の前提となる関連事実と政策課題、政策目的、政策内容とその効果をつなぐ論理の明確化が必要です。
政策内容と効果をつなぐ論理はロジックモデルと呼ばれており、論理的かつ定量的に明示して政策と効果を結びつけるための筋道となります。
まちづくりにおけるEBPMのロジックモデルの構成や構成要素は以下の通りです。
- ・投入:予算、人員など行政活動を実施するための資源
- ・活動:投入資源を用いて行われる行政活動
- ・産出:行政活動の結果、生み出されるモノやサービス
- ・直接効果:産出がもたらす直接的な効果
- ・中間成果:直接効果がもたらす次なる成果
- ・最終成果:政策が目指す最終成果
まちづくりにおけるEBPMでは、政策の設計図やロジック通りに効果が表れているかどうかの検証を行う必要があります。
エビデンスを可能な限り求める
まちづくりにおけるEBPMの推進にあたって、その効果を高めるためにはエビデンスを可能な限り求めなければなりません。
エビデンスの数やレベルが高いほど、より現状の課題を正しく把握することができます。ただし、直ちにビッグデータを収集する必要があるというわけではありません。
公的統計という形で集積・公開されているデータを二次活用することも、エビデンスを求めるうえで効果的な方法です。
政策を行った場合と行っていない場合を比較
エビデンスの取得には、政策を実施したグループと、実施しなかったグループの結果を比較して検証する「ランダム化比較実験」が効果的です。
膨大なデータを収集・分析するだけでは、成果と結果の因果関係がはっきりせず、エビデンスとしてのレベルが低い場合もあります。
そのような場合、ランダム化比較実験を行うことで強いエビデンスを得ることが可能です。
また、ランダム化比較実験が難しい状況であれば、自然実験で検証することもできます。これは行政区の境目の地域で新しい政策を施行し、隣接する自治体との違いを検証する方法です。
こうして得られたデータを解析することで、より強いエビデンスに基づいた政策立案ができるようになります。
まちづくりにおけるEBPMと成果連動型民間委託契約方式(PFS)の関係について
まちづくりにおけるEBPMの推進にあたって、PFSを導入する方法もあります。ここでは、PFSの概要やまちづくりへの活用、EBPMの効果を解説します。
成果連動型民間委託契約方式(PFS)とは
PFSとは、国や自治体が民間事業者に事業委託する際に、事業で解決すべき行政課題について成果指標を設定し、支払額を成果指標の実現度合いに連動させる契約方式です。
PFSでは、成果を創出した場合のみ対価が支払われ、成果が創出されるほど対価が大きくなる特徴があります。
そのため、民間事業者に対して成果創出の意欲を促し、事業の費用対効果が高まります。
また、既存事業の効果検証や内容のマンネリ化の改善、新しい行政サービスの試験的な導入ができる点などもメリットです。
成果連動型民間委託契約方式(PFS)のまちづくりへの活用
まちづくりを推進するにあたって、PFSを導入することで事業効果の最大化が期待できます。
まちづくり事業は多様なサービスが想定されますが、仕様発注においては、民間の自由な事業提案の機会が損なわれている場合もあるでしょう。
しかし、成果発注とすることで、民間の裁量の余地を拡大し、民間事業者は自由な発想で事業提案や実施ができます。
このようなPFSが持つ柔軟性も、事業による効果の最大化につながります。
また、まちづくりの成果は他分野にまたがることも想定されるため、関連庁内の部署や他分野の有識者と連携して事前検討を進めると、より高い効果が期待できます。
成果連動型民間委託契約方式(PFS)によるEBPMへの効果
PFSの効果として、行政におけるEBPMの推進効果が挙げられます。
これはPFS事業の終了時に、PFS事業の成果として民間企業の事業活動と成果指標値の改善状況が得られ、事業活動と成果指標値の改善に係るエビデンスが作れるためです。
PFS事業終了後も、継続して事業対象者の追跡調査を行い、事業目標の達成について評価することが望ましいでしょう。
また、事業目標の達成レベルを評価することにより、新しいエビデンスを作ることにもつながります。
まとめ
この記事では、まちづくりにおけるEBPMの概要や成果連動型民間委託契約方式(PFS)との関係を解説しました。
EBPMは、エビデンスに基づいて政策の立案・評価・修正などを行うことです。
市民のライフスタイルや都市が複雑化している現状において、まちづくりにおけるEBPMの重要性は高まっています。
また、まちづくりには民間企業に委託する手法であるPFSの導入も有効です。
PFSは事業の終了時に成果指標値を得られるため、EBPMを推進するにあたって必要となるエビデンスを得ることもできます。
効率よくまちづくりを進めていくためにも、EBPMやPFSを効果的に活用しましょう。
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